「緊張と緩和」と「業の肯定」古典落語から学ぶ現代のお笑いとは?

お笑い論

緊張と緩和とは

笑いとは緊張と緩和である。松本人志をはじめとする多くの芸人が唱えることで有名なこの定説ですが、語源は落語家の桂枝雀が唱えたものと言われています。

これは、人を笑わせるための理論であり、人間は緊張状態から緩和されたときに笑うという意味で、お笑いの構成やストーリーを考えるときによく使われる手法です。

最もわかりやすい例は漫才でしょう。ボケという緩和の後につっこみ、すなわち緊張状態に戻す人がいることで掛け合いが生まれ、その繰り返しにより笑いが増幅するという手法をとられています。

桂枝雀は緊張と緩和理論から笑いをさらに分類わけし、著書の中で定説としています。松本人志は桂枝雀の影響を幼少期より受けていると公言していて、ガキの使いのサイレント図書館やドキュメンタルという企画にわかりやすく落とし込んでいます。

業の肯定とは

緊張と緩和を提唱した桂枝雀に匹敵するほど落語界と笑いに影響を与えた存在として天才立川談志がいます。

彼は緊張と緩和のほかに人間が笑うメカニズムを提唱しています。業の肯定です。

世間で是とされている親孝行だの勤勉だの夫婦仲良くだの、努力すれば報われるだのってものは嘘じゃないか。そういった世間の通年の嘘を落語の登場人物たちは知っているんじゃないか。人間は弱いのもので。働きたくないし、酒呑んで寝ていたいし、勉強しろったってやりたくなければやらない、むしゃくしゃしたら親も蹴飛ばしたい、努力したって無駄なものは無駄。そういう弱い人間の業を落語は肯定してくれるんじゃないか

すごい言葉だと思います。立川談志は忠臣蔵の赤穂浪士を落語に例えて業の肯定の考察、落語というものの考察を深めています。

落語の世界で語られる緊張と緩和と業の肯定ですが、落語以外の現代のお笑いでもこの理論に基づいて作られているネタが多くあります。今回はそれをいくつか挙げたいと思います。

芸人のネタと「緊張と緩和」

キセル(インパルス)

オンエアバトル初参戦の際にインパルスが披露したネタである「キセル」ですが、このコントはまさに緊張と緩和により笑いを増幅させていると感じます。

漫画「MONSTER」の登場人物のような言動を行う板倉が壮大な話を淡々と語るのに対し、駅員役の堤下が板倉を厳しく詰問します。

「完全なる支配者」「血に染められた羽のある場所」などといった言葉を語る板倉が実はただの無銭乗車をしているだけだったことが話が進むごとにわかっていくのが笑いにつながるコントですが、都度都度緊張状態を作る板倉のダウナー感と、堤下の鋭い突込みが光るコントです。

告白(かまいたち)

かまいたちがキングオブコントを2018年に優勝した際に披露したネタですが、このネタもまさに緊張と緩和を使ったネタに感じます。

後半ボケ役の山内がある狂気じみた恐ろしい行動をとり突込み状態の濱家に恐怖を与えるのですが、それが裏切られていきます。濱家が恐怖と安堵の間を揺れ動く様がとても面白いかまいたちの傑作コントです。

芸人のネタと「業の肯定」

巨人殺人(松本人志)

松本人志の作った伝説のDVD「ビジュアルバム」に収録されているコントです。

男たちが坂東という奈良の大仏ほどもある男にひどい目に合わされていて、坂東の殺人計画を企てるというとんだ設定のコントです。

殺人計画という恐ろしい設定からばかばかしいオチにつながるまでは緊張と緩和の手法も入っていると感じますが、それよりも感じるのはコントの登場人物の愚かさです。

殺人計画が好転するたびに男たちは酒を飲んだりさぼったりして一向に話がまとまりません。また殺人の合図に「おしゃれなこと」を叫ぶというものを使うのですが、個人の感性によるものなので本番である言葉を叫んでも仲間は誰も動きません。

その後殺人の計画の最後にとある大きな失敗をしてしまうのですが、その原因、それに対する打開策などすべてにおいて詰めが甘く、明確な笑いどころが少ないコントではありますが見終わるまでに登場人物への呆れや面白さがあふれているまさに業の肯定の傑作コントです。

ハナからのハジマリ(バナナマン)

名作ぞろいのバナナマンのコントで、最も人間の業を感じさせる名作です。このほかにも「puke」「Loser」など、バナナマンのコントはあまりに愚かで、でもそれが憎めない登場人物が登場するものが多くあります。

ハナからのハジマリは日村演じるとあるサラリーマンの送別会が開かれているのですが、どうやら人望がないようで出席者が設楽演じる後輩たった一人しかいないというところから始まります。

一体日村は過去になにをしたのか、スピーチと二人の会話から明らかになるのですが、日村の過去に起こしたことのひどさと、その開き直り方からどんどん深みにはまっていく面白さがあります。

最後のオチにとる設楽のある行動がこのコントの結末として非常に府におちるものであり、人間の業をすべてさらけ出したときに人はどうなるのかを現したバナナマンの名作コントです。

まとめ

落語界の二人の天才が提唱した笑いの理論は現代のお笑いにも強い影響を与えていることがわかります。

古きを通じて新しきを知るという言葉がありますが、お笑いも古典から多くのものを取り入れて常に進化をし続けているのだと感じます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました