スリムクラブの漫才はなぜゆっくり? 観客を裏切るための深い戦略とは?

スローテンポの訳はお笑い論
スリムクラブ

スリムクラブはどんなコンビ?

スリムクラブは、ボケ担当の真栄田賢とツッコミ担当の内間政成が1997年に結成したお笑いコンビです。

2人とも沖縄出身ということもあり、ゆったりした雰囲気を持ち、人柄の良さが特徴です。

スリムクラブが最初に日の目を見たのはエンタの神様です。

エンタの神様では怪物フランチェンとして登場して人気を集めましたが、番組が終了するとスリムクラブがテレビに登場する機会は少なくなります。

しかし、スリムクラブは漫才師として復活し、2010年に再度注目を浴びることになります。

M-1グランプリ2010で準優勝!

スリムクラブの漫才は突飛なボケと独特の間が特徴で、非常にスローテンポで会話が進んでいきます。

ボケの数とテンポが重視される当時のM-1において、スリムクラブの漫才は真逆の特徴を持っています。

当時はNONSTYLEやキングコング、笑い飯のようなハイテンポな漫才が主流でした。

そうしたスピーディな漫才と比べると、ボケの数が減る分、単純に考えると不利なように思えます。

しかしその新しさが逆にハマり、見事2010年のM-1では準優勝という結果を勝ち取ります。

審査員として採点した松本人志は「時間が惜しくないのか」と、そのネタの斬新さを絶賛し、96点という高得点を付けています。

当然ながら、ただテンポが遅いだけで評価されるはずはありません。

それでは、なぜ一見して不利に思えるスローテンポな漫才で、観客を大笑いさせ、審査員から高評価を得ることができたのでしょうか。

なぜスローテンポの漫才をするのか?

スリムクラブがスローテンポの漫才をする理由はズバリ「真栄田のボケのレベルが高すぎる」からです。

一般的に、漫才で観客は「予想を裏切られた」と感じた時に面白さを感じます。

予想もしなかった発言や、突拍子もない動きをする漫才師を見て笑ったという経験からも、予想の裏切りが笑いにおける重要な要素であることに疑問はないでしょう。

ここで、スリムクラブが 2010年のM-1グランプリで披露した「勘違いに気付かない人」のネタにおける1つ目のボケを見てみます。

真栄田が内間に道端で誰かと間違えて話しかけるというシーンです。

真栄田:すいません・・・間違ってたら失礼ですけど…あなた以前・・・私と一緒に・・・生活してましたよね?

この1つ目のボケを、真栄田はたっぷり17秒使って発言します。

漫才を観ているので、観客は当然どこかの段階でボケがきて、その後にツッコミがくる、ということはわかっています。

そのため、この17秒の間に観客は「どんな発言が来るのだろう」「自分だったらこうボケるかな」ということをうっすら予想します。

しかし、真栄田の「一緒に生活してましたよね?」というボケは十数秒では確実に予測不可能なものとなっています。

その後も「あなたは一番怖いものは放射能と教えてくれた」「あなたは一番弱いものはウズラと言っていた」といった普通では思いつかないボケが続々登場します。

ゆっくり喋ることで観客に先のセリフをある程度予想させ、それを超えるぶっ飛んだボケで大きく予想裏切ることで、爆発力のある笑いを生むことができるのです。

ぶっ飛んだボケでも、間を取らずに言ってしまっては観客が先を予想することもできずに、突飛な発言にキョトンとするだけです。

スローテンポの漫才は、真栄田のボケを最大限活かすための仕組みだったのです。

一見ただ真新しさを狙っただけに見えるスリムクラブの漫才は、自分のボケが観客に予想されても、それを超えることができるという絶対の自信があるからこそできる大胆で緻密な戦略なのです。

また、2019年のM-1で注目を浴びたぺこぱも、観客の予想を裏切る漫才の仕組みを利用して3位という好成績を残しています。

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